社会保険労務士事務所のホームページは、きちんと作られているところが多いように思います。業務内容が並び、所長のプロフィールがあり、事務所の所在地と連絡先が載っている。情報としては足りているのに、問い合わせだけが来ない。そういうご相談は珍しくありません。
理由の多くは、文章の質ではなく「言葉のズレ」です。社労士の側は「労務顧問」「就業規則作成」「給与計算アウトソーシング」と書く。けれど困っている会社の社長や総務担当の方は、「従業員が突然来なくなった どうする」「残業代 計算 合っているか不安」といった、もっと生々しい言葉で検索しています。ここが噛み合っていないと、せっかくの専門性が見つけてもらえません。この記事では、顧問先になりうる方が実際に使う言葉の見つけ方と、ホームページに何が書いてあれば問い合わせにつながるのかを、順を追って整理します。費用はかからず、今日から手を動かせる内容だけを書いています。
最初に結論からお伝えします。顧問契約につながるお客様の多くは、「社会保険労務士」や「社労士 顧問」という職業名では検索していません。検索窓に打ち込まれているのは、その人がいま抱えている困りごとそのものの言葉 です。
ここでいう「キーワード」とは、お客様が検索窓に実際に打ち込む言葉のことです。事務所側が使いたい言葉ではなく、相手の頭の中にある言葉、と考えると分かりやすいと思います。
いずれも、職業名は一言も入っていません。打ち込んでいる人の頭にあるのは「誰に頼むか」ではなく「この状況をどうすればいいのか」です。専門家に依頼するという発想は、調べているうちに後から出てきます。
この、探す側の言葉と載せている側の言葉のズレが、ホームページはあるのに問い合わせが来ない最大の理由です。内容が薄いわけでも、実力が足りないわけでもありません。むしろ、きちんとした業務をされている事務所ほど、業務名で整理された丁寧なページになっていることが多く、だからこそもったいない状態になっています。
もし、困りごとの言葉で書かれたページがゼロに近くても、気にしすぎる必要はありません。多くの事務所がそうなっています。ここを1ページずつ足していくことが改善の出発点で、実際にどんな言葉で人が来ているかは無料で検索語を調べる方法 で確かめられます。次の章では、探す人のタイプごとに使う言葉を分けて見ていきます。
顧問先になりうる方が検索する動機は、大きく4つに分けて考えると整理しやすくなります。これは統計ではなく、相談内容の種類から組み立てた分類の提案です。ご自身の事務所に来る相談を思い出しながら、どのタイプが多いかを当てはめてみてください。同じ「社労士を探している人」でも、頭の中にある不安が違えば、検索窓に打ち込む言葉もまったく変わります。
タイプ
相手の状況
頭の中にある不安
打ち込みそうな言葉
用意するページ
(1)トラブル発生型
問題のある社員への対応、解雇、未払い残業の請求、労働基準監督署の調査が入った
このまま進めて違法にならないか。訴えられないか。今日明日どうすればいいのか
「解雇 手続き 相談」「未払い残業 請求された」「労働基準監督署 調査 対応」「問題社員 辞めさせたい」
トラブル別の対応ページ。初動で何をすべきかと、相談の流れ
(2)手続きが回らない型
社員が増えて入退社の手続きが追いつかない、算定基礎届や労働保険の年度更新、給与計算が負担
間違っていないか。この作業に人を割き続けるのか。いくらで任せられるのか
「入社 社会保険 手続き 代行」「算定基礎届 やり方」「給与計算 外注 費用」「労働保険 年度更新 代行」
手続きごとの説明+代行範囲と料金の目安
(3)制度を整えたい型
就業規則がない、または何年も直していない。評価制度や育休の規程、36協定を整えたい
自社に合う内容になるのか。ひな形との違いは何か。どれくらい時間がかかるか
「就業規則 作成 依頼」「育児休業 規程 整備」「36協定 書き方」「人事評価制度 作り方」
制度ごとの作成ページ。作成の流れと期間、関わる範囲
(4)お金が絡む型
使える助成金を知りたい、社会保険料の負担を見直したい
自社が対象になるのか。手間に見合うのか。申請の期限は過ぎていないか
「助成金 対象になるか」「◯◯助成金 申請 社労士」「社会保険料 見直し」
助成金の種類別ページと、対象かどうかの簡単な目安
緊急度と問い合わせのしやすさは、タイプごとに違う
4つのタイプは、相談に至るまでの速さが違います。(1)のトラブル発生型は、今まさに困っている状態なので、調べたその日のうちに電話やフォームに進む可能性が高いタイプです。(4)のお金が絡む型も、申請に期限があるものが多く、「早く確かめたい」という気持ちが働きます。
一方で(2)と(3)は、「いつかは頼みたい」という段階で調べていることが多く、ページを読んですぐ連絡、とはなりにくい傾向があります。そのぶん、読んだ内容が記憶に残り、半年後に思い出されることもあります。どちらが優れているという話ではありません。
着手の順番は(1)(4)から
ページを一度に全部そろえるのは大変ですから、順番をつけます。反応が見えやすいのは、緊急度の高い(1)と(4)です。
直近1年で実際に受けた相談を、上の4タイプに振り分ける
その中で件数が多く、かつ緊急度の高いものを2〜3個選ぶ
選んだテーマごとに1ページずつ、相談者の言葉を見出しに使って書く
公開後しばらくして、どんな言葉で来ているか を確かめ、ずれていれば見出しを直す
(2)(3)のページは、その後で順に足していけば十分です。いきなり事務所全体の案内を作り直すより、相談の多いテーマを1つ選んで深く書くほうが、手応えを確かめながら進められます。
お客様が使う言葉を自分で調べる手順(無料でできる)
顧問先になる方がどんな言葉で検索しているかは、想像するよりも調べたほうが早く、しかも無料でできます。順番にやれば1〜2時間で、使える言葉が数十個集まります。
手順1:検索窓に途中まで打って、出てくる候補を全部メモする
Googleの検索窓に「従業員 辞めさせ」「残業代 請求され」「社会保険 加入 義務」などと途中まで入力すると、その下に続きの候補が自動で並びます(サジェストと呼ばれる機能です)。これは実際に多くの人が打ち込んでいる言葉の並びなので、宝の山です。表示された候補はスクリーンショットではなく、文字でそのまま書き写してください。「助成金」「就業規則」「労基署」「36協定」など、思いつく入口の言葉を10個ほど用意して、それぞれ試します。
手順2:検索結果の一番下「他の人はこちらも検索」を見る
検索結果を一番下までスクロールすると、関連する検索語がまとまって表示されます。自分では思いつかない言い回し(「労基署 呼び出し 対応」「解雇 予告手当 計算」など)がここで拾えます。これもそのまま控えます。
手順3:「他の人はこんな質問も」を開いて、質問文ごと控える
検索結果の途中に、折りたたまれた質問が並ぶ枠が出ることがあります。クリックで開くとさらに質問が増えていきます。ここは質問文がそのまま文章になっているので、ホームページの見出しに使いやすいのが利点です。「社労士に頼むといくらかかりますか」「就業規則は何人から必要ですか」といった形で控えておきます。
手順4:Search Consoleで、自分のサイトが実際に拾われている言葉を見る
Google Search Console(サーチコンソール)は、自分のホームページがどんな言葉で検索結果に表示されたかが分かる無料の管理画面です。ログインして「検索パフォーマンス」→「クエリ」を開くと、表示された言葉の一覧が出ます。クリックが0でも表示回数がある言葉は、「あと少しで届いている言葉」なので優先して拾ってください。まだ登録していない場合は、Search Consoleの登録手順 を先に済ませておくと、以降の見直しがぐっと楽になります。データが貯まるまで数日かかるので、早めの登録がおすすめです。
手順5:実際に受けた電話・メールの「最初の一文」を書き出す
ここが一番正確です。問い合わせの第一声は、お客様が自分の困りごとを自分の言葉で説明した記録そのものだからです。「従業員が突然来なくなってしまって」「監督署から書類が届いたのですが」「パートさんの社会保険、どこから入るんでしょうか」——こうした一文を、過去の問い合わせ記録やメールから20件ほど書き出してみてください。検索の候補語よりも生々しく、そのままページの見出しや冒頭文に使えます。
手順6:地域名との組み合わせを確かめる
顧問契約は対面の相談が前提になりやすいため、地域名を添えて検索される割合が高くなります。「社労士 ○○市」「就業規則 作成 ○○」「助成金 相談 ○○」と、自分の市区町村名・近隣市名・最寄り駅名で実際に検索し、どんなページが並ぶかを見ます。同業の事務所がどの言葉でページを作っているかも、ここで分かります。
集めた言葉を3列に仕分ける
最後に、スプレッドシート(無料の表計算)に集めた言葉を貼り付け、次の3つに仕分けます。
困りごと ……「従業員 辞めさせたい」「残業代 請求された」など、感情や状況の言葉
手続き名 ……「就業規則 作成」「算定基礎届」「36協定 届出」など、名前が決まっている言葉
地域 ……「社労士 ○○市」など、地域名が付いた言葉
仕分けると、どの列が自分のホームページに足りていないかが一目で分かります。多くの場合、手続き名のページはあるのに、困りごとの言葉で書かれたページが1枚もない、という形になります。そこが次に作るページの候補です。
問い合わせにつながるページに書いてある5つの要素
探している言葉に合わせてページを作っても、中身が一般論のままだと、読んだ方は「相談していいのか判断できない」まま離れてしまいます。もったいないのは、実務では毎日のように答えている内容が、ホームページには書かれていないことです。ここでは、相談につながりやすいページに共通して書かれている5つの要素を挙げます。
1. 「こういう状態の方向けです」と対象をはっきり書く
読んだ方が最初に確かめたいのは、自分が相談していい相手かどうかです。「企業の労務をサポートします」では判断がつきません。たとえば次のように、状況で書くと伝わります。
従業員が10名前後になり、総務の専任者がいないお店・会社
初めて人を雇うことになり、何から手続きすればよいか分からない方
パート・アルバイトの入退社が多く、保険の手続きが追いつかない業種(飲食・介護・運送など)
就業規則を作ったまま年数が経ち、今の働き方と合っていない会社
対応できない範囲(例:対応エリア、特定の手続きは提携先と連携して対応、など)も併せて書くと、かえって信頼されます。
2. このままだとどうなるか、相談するとどう進むか
手続きを先送りしたときに何が起きるか(遡って保険料が発生する、助成金の申請期限を過ぎる、労使トラブルで証拠になる書類がない等)を、脅すのではなく事実として書きます。そのうえで、相談した場合の流れを時系列で示します。「初回は現状をうかがうだけで30分程度」「必要な書類をこちらから一覧でお渡しします」「手続きの開始まで通常○営業日」のように、次に何が起きるかが見えると、連絡のハードルが下がります。
3. 料金の考え方を書く(金額を出せない場合も)
顧問料が見えないことは、相談をためらわせる最大の理由のひとつです。一社ごとに変わるため金額を出しにくいのは当然ですが、何で金額が決まるか だけでも書けます。
従業員数(何名までがいくら、という区切り)
年間の手続き件数、入退社の多さ
訪問の有無、オンライン中心かどうか
給与計算を含むか、スポット(単発)対応か
「従業員○名・給与計算なし・オンライン中心の場合、月額○円~が目安です」と幅で示すだけでも、読んだ方は自社の見当がつきます。料金が出しにくい仕事の書き方 は他業種でも同じ悩みで、考え方は共通します。
4. 誰が対応するのか
士業は人を選ぶ相談です。顔写真、経歴、開業年、得意分野、これまで関わってきた業種、どんな相談が多いかを書きます。代表以外に担当者がいるなら、実際に窓口に立つ方のことも。「電話は誰が出るのか」「担当は固定か」といった細かい点も、読む側は気にしています。
5. 相談から契約までの手順と、「相談だけで終わっても構いません」の一文
問い合わせたら契約を迫られるのでは、という警戒は根強くあります。初回相談の時間・費用・場所、その後の提案までの流れを番号で並べ、その場で契約を決める必要はないこと、相談のみで終わっても費用はかからないこと を明記してください。この一行があるかないかで、連絡のしやすさは変わります。
なお、実績や声を載せたくても、守秘義務があって書けない場面は多いはずです。その場合は作らず、実際に聞かれた質問をQ&A形式にする 方法があります。「従業員3名でも顧問契約できますか」「今の社労士から変えたいのですが手続きは面倒ですか」など、面談で毎回答えている内容をそのまま並べる。これは事実であり、読んだ方には何より具体的に届きます。
問い合わせにつながる5つの要素
対象を明確化 どんな状態の方向けかを状況で書く
今後の流れ 先送りのリスクと相談後の進行を示す
料金の考え方 従業員数など金額が決まる基準を書く
対応者の情報 顔写真や経歴、得意分野を載せる
相談手順と一言 相談だけで終わってもよい旨を明記する
業種・地域・手続き名でページを分ける考え方
サービス案内のページに「就業規則・給与計算・助成金・労務相談」と並べて書いてあるだけ、という事務所はとても多いです。これは丁寧にまとめようとした結果なので無理もないのですが、検索との噛み合いという点ではもったいない形になっています。検索する人は「就業規則 作成 費用」「建設業 社会保険 加入 相談」のように、自分の状況だけを言葉にして探します。1つのページに全部が少しずつ書いてある状態より、その話だけが詳しく書いてあるページのほうが、探している人の疑問にまっすぐ答えられます。考え方としては許認可の種類ごとにページを分ける のと同じです。
(a) 手続き・テーマ別に分ける
いちばん分けやすいのがここです。就業規則の作成・見直し、給与計算の代行、助成金の申請サポート、労務トラブル(解雇・残業代・ハラスメント)の相談、障害年金の請求サポート。それぞれで、相談する人の状況も不安もまったく違います。1ページにつき1テーマで、何をするのか・どこまで対応するのか・おおよその費用の考え方・相談から着手までの流れを書きます。
(b) 業種別に分ける
業種別のページは、他事務所と差がつきやすい部分です。
建設業:社会保険の加入指導、一人親方の扱い、現場ごとの労災
飲食店:シフト制の労働時間管理、深夜割増、アルバイトの雇用契約
医療・介護:夜勤と宿直の違い、宿直手当、変形労働時間制
運送業:改善基準告示、拘束時間と休息期間、点呼と労働時間の整理
ここで大事なのは、その業界でふだん使われている言葉をそのまま書くことです。「宿直手当」「拘束時間」「一人親方」といった言葉が本文にあるだけで、読んだ人は「うちの業界を分かっている人だ」と感じます。逆に一般論だけのページは、どこの事務所でも書けるので印象に残りません。
(c) 地域のページは「対応範囲」まで書く
地域ページを作るなら、事務所の住所を書くだけでは足りません。相談する側が知りたいのは、自社まで来てもらえるのか、来てもらうと費用が変わるのか、オンラインだけでも進められるのかです。対応エリアの市区町村名、訪問できる範囲と訪問の頻度、オンライン(オンライン会議や電話・メール)での対応可否、初回相談の方法を具体的に書きます。
作りすぎないための優先順位
分けたほうがいいからといって、内容の薄いページを何十枚も作るのは逆効果です。中身が似通ったページが並ぶと、どれを見せるべきか検索側も判断しづらくなります。まずは3〜5ページから始めるのが現実的です。優先順位は次の順で考えます。
すでに受任が多く、自分が一番詳しく書ける業務(たとえば就業規則)
顧問契約につながりやすい入口になっている相談内容
地元で件数が多い業種(建設、飲食、介護など、周囲の実情に合わせて)
所在地+対応エリアのページ
更新の現実的な目安
ページは公開してすぐ反応が出るものではなく、検索に載って読まれるまでに時間がかかります。目安としては月1〜2本でも、やめずに続けることのほうが効いてきます。毎週書こうとして止まってしまうより、月1本を1年続けて12ページにするほうが、結果として形になります。法改正や助成金の内容が変わったときに既存ページを直す作業も、新規作成と同じくらい価値があります。ただし、これは取り組み方の目安であって、順位や問い合わせ件数を約束するものではありません。
まとめ:言葉を合わせることから始める
ここまでの内容を、短く整理します。社会保険労務士事務所のホームページで顧問先が探している言葉は、多くの場合「社労士」という職業名ではありません。「従業員 初めて 雇う 手続き」「残業代 計算 相談」「助成金 申請 代行」「就業規則 作り直したい」のように、目の前で起きている困りごとの言葉で検索されています。事務所側は職業名で名乗り、探す側は困りごとで探す。この食い違いがあるだけで、良い仕事をされていても見つけてもらえません。もったいない話です。
この記事でお伝えしたこと
探す人は職業名を使わない 。手続き名・制度名・トラブルの状況で検索されることが多い。
探す人には大きく4つのタイプがある 。初めて人を雇う方、今まさに労務トラブルを抱えている方、助成金を知りたい方、今の顧問先から乗り換えを考えている方。それぞれ使う言葉も、聞きたいことも違う。
言葉は無料で集められる 。検索窓に途中まで入れたときに出る候補(サジェスト)、Search Console(自社サイトがどんな言葉で表示されたか分かる無料ツール)の検索語、そして日々の電話やメールで実際にお客様が口にした言い方。この3つで十分な材料になる。
ページに書くことは5つ 。誰向けのページか(対象)、依頼から完了までの流れ、料金の考え方(金額が出せないなら何で決まるかだけでも)、担当する人の顔と経歴、そして相談の始め方。
テーマと業種で分ける 。1枚にすべて書くより、手続きごと・業種ごとにページを分けたほうが、探している言葉と合いやすい。
どこから手をつけるか
Search Consoleで、過去3か月に自社サイトが表示された検索語を上から50個ながめる。
その中で「あるのに該当ページがない言葉」を3つ選ぶ。
その3つについて、上の5要素を書いた1ページずつを作る。
一度に全部やり直す必要はありません。1ページずつで構いません。考え方の近い話として、許認可の種類ごとにページを分ける という記事も参考になるかもしれません。
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もし、自社のホームページのどこを直せばよいか分からないという場合は、無料のホームページ診断をご利用ください。サイトのURLとメールアドレスだけでお申し込みいただけます。現在どんな言葉で見つけられているか、どのページが足りていないかを見て、お返しします。検索順位や問い合わせ数をお約束するものではありませんし、その場で何かを売り込むこともありません。今の状態を見てみるだけ、という使い方で構いません。
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